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【20年の経験者が語る】外資系企業のフィールドマーケティング

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外資系企業に興味のある人
外資系企業に興味のある人

外資系企業のマーケティングのポジション(職種)への転職に興味があるけれど、よく見かける「フィールドマーケティング」ってどんな仕事をするの?

このように考えている人は、この記事が参考になります。

私は外資系企業に20年以上在籍していましたが、そのほとんどが「フィールドマーケティング」という職務でした。今日はこのフィールドマーケティングについて考察します。

一口に「マーケティング」と言っても、外資系企業ではいろいろなマーケティングポジション(職務)があります。

例えばプロダクトマーケティング、マーケティングコミュニケーション、フィールドマーケティング、チャネルマーケティング、デジタルマーケティング、PR(広報)などが代表的なものです。

その中でも、「フィールドマーケティング」は、その会社のマーケティング業務の中核をなすものです。フィールドマーケティングは、文字通りフィールド(現場)で実施するマーケティング活動を担う職種です。

本記事では、私の経験をもとに、フィールドマーケティングの仕事内容、役割、よく連携する部署、良いこと、大変なことをカバーします。

フィールドマーケティングの仕事内容

外資系IT企業のお客さんは「法人組織」

フィールドマーケティングの仕事内容は、製品やサービスを売る対象顧客によって変わります。外資系企業の場合、IT関連の商材を扱うケースが多く、その場合の対象顧客は法人組織になります。

しかも、中小企業ではなく、売り上げ規模や従業員数が多い「大企業」であることがほとんどです。加えて多くの場合、官公庁や教育機関なども対象顧客になります。

法人組織を対象とするマーケティング活動は「B to Bマーケティング」と呼ばれます。B to Bとは、Business to Businessの略語で、法人企業が法人企業に製品やサービスを販売する総称です。

対して、販売の対象が法人組織ではなく一般消費者の場合は、「B to C」と呼ばれます。ここで言う「C」とは、Consumerのことです。

「マーケティングの神様」と呼ばれるフィリップ・コトラーは、「組織市場」と「一般消費財市場」の違いを以下のように説明しています。

多くの点で組織市場は消費財市場と異なっている。主な相違点は、市場構造や需要、購買単位の特性、意思決定のタイプとそのプロセスである。

フィリップ・コトラー、ゲイリー・アームストロング、「新版 マーケティング原理 戦略的行動の基本と実践」p218、ダイヤモンド社

市場構造と需要」とは、販売対象である法人組織の数が消費者数よりも少なく、かつ購買金額の規模は大きいということです。

購買単位の特性」とは、組織購買には多くの購買者が介在するということです。

意思決定のタイプとプロセス」とは、組織の購買者による意思決定が複雑で、時間がかかるということです。

このように「B to B」と「B to C」ではかなりの違います。そして外資系IT企業の多くが法人組織を相手に営業、マーケティングを行っています。

フィールドマーケティングの任務は「デマンドジェネレーション」

以上を前提としてフィールドマーケティングの任務を一言で言うと、「デマンドジェネレーション」となります。デマンドジェネレーションとは、日本語に訳すと「新規案件創出」になります。

「案件」とは、法人営業部隊に渡す「見込み客情報」のことです。「市場で見込み客を見つけてきて、その人たちに製品への興味を喚起させ、興味が出てきたら法人営業部隊にその情報を引き渡す」ことが主な仕事になります。

この見込み客情報は「リード(Lead)」と呼ばれます。

法人組織はすぐに製品を購入しない

デマンドジェネレーションでは「見込み客獲得→育成→選別」という活動を行います。

なぜこのような過程を踏むかというと、先のコトラーによる指摘のように、「組織の意思決定は複雑で時間がかかる」ためです。法人組織は、製品やサービスを即決で買うことは稀です。

最初に見込み客を獲得しても、その時点では興味が多少あるくらいで、とても購買までとはなりません。製品への興味が高まったとしても、IT部門、購買部門、導入部門など多くの人たちが介在し、さまざまな角度から検討・意思決定がなされますので、商談の成約までには長い時間がかかります。

そのため、「育成」や「選別」の施策が必要となります。この部分もフィールドマーケティングの重要な仕事です。

見込み客を獲得してから、製品が売れるまでの期間は、製品やサービス、商談規模などにより変わりますが、私の経験では少なくとも9か月、中には2年以上かかった商談もありました。

フィールドマーケティング活動の根本は「ファネルの最適化」

私が外資系IT企業に在籍していたとき、良く目にしたものが「ファネル(funnel)」です。ファネルとは、日本語で漏斗のことです。

なぜ漏斗なのでしょうか?それは以下のプロセス例を見ていくとわかります。

  1. イベントや展示会で見込み客情報を入手します。この時点では「ほとんど製品に興味のない人」から「多少は興味のある人」たちまで、さまざまな人が入り混じっています。
  2. アンケートや会話記録などから、「この人は自社の製品に興味がありそうだ」という人をピックアップし、電話をかけたり、追加でセミナーを案内します。
  3. その結果、「法人営業との面談OK」となった人が出てきます。
  4. 営業がその人と面談・メールし、商談の脈がありそうとなった場合、今後フォローします。
  5. フォローした結果、無事商談がまとまります。

1の見込み客の数は多く、2→3→4→5となるにつれて、数が減っていきます。これを漏斗に見立てているわけです。

フィールドマーケティングで実施する個々の活動、例えば単発イベント、展示会、ウェビナーなどは、「プログラム」と呼ばれます。一方、大規模なイベントや数か月にわたるオンライン広告などは、「キャンペーン」と呼ばれます。キャンペーンは複数のプログラムから成り立ちます。

B to Bマーケティングのファネルは、SiriusDecisions (現Forrester Research)によりモデル化されています。フィールドマーケティングでは、仕事で使われる固有の言葉があります。上記の過程を例に見てみましょう。

  1. 展示会やイベントで獲得した見込み客情報は「Inquiry」と呼ばれます。また、会社のウェブサイト経由で問い合わせしてきた人も「Inquiry」に入ります。
  2. その後、会社が電話して「営業との面談OK」になった見込み客情報は、「Marketing Qualified Lead(MQL)」と呼ばれます。電話によるアプローチだけでなく、Marketing Automation Toolで付与されるスコア(点数)で自動的にMQLになる場合もあります。
  3. 営業がMQLを獲得して、面談やメールの結果「このリードをフォローする」となったら、Sales Accepted Lead(SAL)になります。
  4. 営業がSALをフォローした結果、商談の見込みが出た場合、Sales Qualified Lead(SQL)となります。
  5. SQLフォローの結果、商談が成立した場合は「Closure(Won Business)」となります。
Demand-Waterfall-Marketing

外資系企業の現場では、「今期のInquiryは少ないな」「あのセミナーのMQLはどうなった?」「この前のイベントで出たSQLのステータスは?」などの言葉が飛び交います。

MQLを増やしたくても、Inquiryが少ないと難しいですし、質の低いMQLを営業に渡すと、SQLになる確率が低くなります。

このように、全体のファネルのバランスを見ながら最適化していくことが、フィールドマーケティングの仕事で重要になります。

フィールドマーケティングの仕事は多岐にわたる

さきほど「フィールドマーケティングの任務はデマンドジェネレーションである」という話をしました。デマンドジェネレーションでは、「見込み客獲得→育成→選別」というプロセスを経て、MQLを作り出します。

見込み客獲得では、展示会、イベント、メディア主催ウェビナーなどを活用します。

育成では、メルマガや自社ウェビナーなどを活用します。

選別では、育成から出た有望な見込み客をピックアップします。

ウェビナーでアンケートをして製品の興味度合いや、メルマガの開封率、クリック率をスコア化して、特定の値に達したら電話でアプローチします。電話をかける人は、インサイドセールスと呼ばれます。

このように、フィールドマーケティングの仕事は多岐にわたります。

フィールドマーケティングの成績はMQLやSQLの数で測られる

フィールドマーケティングの主な目的は、MQLやSQLの数を増やすことです。

私の場合は、MQLやSQLの獲得数や金額が主な評価基準でした。他の外資系企業のJob Descriptionを見る限り、恐らく似たり寄ったりでしょう。

ただ、MQLを増やすことだけが目的になってしまうと、「やみくもにMQLを増やす」ことに目がいってしまい、MQLの質低下や営業の目的と合わなくなるなどの問題が発生します。

フィールドマーケティングの担当者は、営業と密に連携し、一体となってプログラムを組むことが理想です。

マーケティングも「ROI」が求められている

私が以前在籍した外資系企業では、マーケティング部門でも「ROI」がますます重視されるようになりました。これはMROI(マーケティング投資効果)とも呼ばれます。

例えばある展示会に出展するとします。その展示会に参加し、リードを獲得してその後のMQL、SQL、Closureなどのデータをトラッキングします。そして「その展示会に出展した投資効果があったのか」をあとから計測します。

もし投資金額に見合う効果が得られなければ、次回からは出展しないという選択肢になります。

私の経験では、単純なROIだけでは判断できないイベントや展示会もあります。例えば営業が「戦略的な観点」で毎年参加している展示会などです。

戦略的な観点とは、例えば営業にとって「非常に重要なキーマン」が主催しているイベントであるとか、ドンピシャのターゲット顧客が来るのは明白だけど参加者は少なくてROIとしては不透明、のようなケースです。

こうした場合は、営業とフィールドマーケティングで話をして、出展するかどうかの判断を行います。

フィールドマーケティングの役割と責任

フィールドマーケティングの役割や責任は、外資系企業が募集する「Field Marketing Manager」や「Regional Marketing Manager」のJob Descriptionを見るとわかります。(名称は各企業によって変わります)

以下、Job Descriptionの例を見てみましょう。

  • Key Responsibilities
    • Develop quarterly field marketing plan and manage goals, KPI and regional budget
    • Managing the execution of integrated marketing campaigns
    • Track your marketing campaigns and identify ROI
    • Ensure that all generated leads are assigned to the appropriate sales teams and receive timely follow-up
    • Build and deliver impactful content, including case studies, blogs, social posts, and localization of key collateral created by headquarters
    • Manage the local social media accounts in the region
    • Organize, plan, and executive company trade shows and online events
    • Work closely with the global marketing team in the US headquarters to create regional marketing materials
    • Develop lead acquisition and lead nurturing campaigns
    • Coordinate with the other marketing team and the field event management team
    • Closely work with the corporate sales team & inside sales team
  • Qualifications (Skills and Experience)
    • 5+ years B2B marketing experience in the region
    • Native Japanese and fluent in English
    • Lead Generation experience
    • Demonstrable track record of delivering impactful marketing and communications programs
    • Strong project management skills and ability to perform in fast-paced environment
    • Experience working with Eloqua, Salesforce.com and other CRMs
    • Strong verbal and written communication skills are required
    • Able to work independently and take the initiative in a remote work environment
    • Self-driven, collaborative person willing to push and drive results

いろいろと書かれていますが、主な部分を要約すると下記になります。

  • 役割
    • リージョン(例:日本)のフィールドマーケティング計画と予算管理
    • リージョンでのマーケティングキャンペーン実行とKPI追跡
    • イベントや展示会、ウェビナーの企画、実行
    • 営業へのリード提供
    • 本社のマーケティングチームとの密な連携
    • リージョンのマーケティングチーム、営業部門との密な協業
  • 必要なスキル
    • 数年以上のB to Bマーケティング経験
    • 英語を話せること
    • プロジェクト管理経験
    • マーケティングオートメーションツール経験
    • 一人で能動的に動き、他部署と協業できる

フィールドマーケティングの仕事は、責任範囲が広く、常にいろいろなところに気を配る必要があります。そのため社内外の関係者とのコミュニケーション力は必須となります。外資系企業のフィールドマーケティング職に転職する場合は留意すべき点です。

他部署との連携が多いので、他人の意見は聞きつつも最後は「自分がこうしたい」という強い意思で物事を決めていくことが求められます。

英語力は必須です。私の場合、本社とのやりとりでは、プランを決めたり、予算を申請したり、レポートを行うことが多く、英語での会話は頻繁にありました。

よく連携する部署は5つ

  • インサイドセールス
    • マーケティング活動で獲得した見込み客情報を選別して、電話でアプローチする役割です。アプローチする際は、フィールドマーケティングとインサイドセールス両方で見込み客情報をよく見て検討し、お互いに合意のもと電話することが理想です。会社によってはインサイドセールスは持たずに、外注しているところもあります。
  • 法人営業部門
    • 法人営業部門にリードを提供します。マーケティング、インサイドセールスが提供するリードの質が高いと、営業も満足しますが、「リードの質が低い」と営業の満足度は上がりません。質を高めるには、イベントにせよ展示会にせよ、事前のプランをお互いに納得の上実施することが必要です。
  • マーケティングコミュニケーション部門
    • 通称「マーコム」とも呼ばれます。マーコムは、例えばイベントのロジスティクス(必要とされる機材の調達、輸送、会場の装飾、業者とのやりとりなど)の支援や、ウェビナーのプラットフォーム準備、メルマガ準備支援などを行います。
  • システムエンジニアリング部門
    • イベントやウェビナーなどを行うときに、システムエンジニアの助けが必要になります。例えば展示会であればブースのアテンド、ウェビナーであれば講師など、システムエンジニアに頼むことになります。
  • 本社のフィールドマーケティング
    • 各四半期におけるリージョンのマーケティングプランや予算、結果報告などのやりとりがあります。また、例えば本社のフィールドマーケティングが基本メッセージやコンテンツを用意して、それを各リージョンに展開することもあります。その場合はコンテンツのローカライズが必要です。

フィールドマーケティングの良いところ

  • 半端ない達成感
    • イベントにせよ、展示会にせよ、やり遂げたときの達成感は「半端ない」です。特にイベントが成功し、社内外で感謝されたときは「最高の瞬間」と言えます。
  • 司令塔になれる
    • プログラムを回すとき、自分が司令塔になって他の人を動かせるのも醍醐味の一つです。プランから実行まで、自分が司令塔になってすべてを仕切ることができます。
  • 自分の思い通りにプログラムを進められる
    • フィールドマーケティングの担当者は、プログラムの企画から実行まで、自分で思い描いた内容で進めることができます。仕事をやらされている感ではなく、主体的に自分が回していることを実感できます。

フィールドマーケティングの大変なところ

  • 責任が重くなる
    • 司令塔になれるということは、裏を返せばその分責任が重くなります。イベントなどのプログラムを進める場合は、あらゆるところに気を配り、滞りがないか、問題はないかなどのチェックが欠かせません。
  • 結果を出さねばというプレッシャー
    • プログラムの結果が期待通りでないと、営業からは文句が出ますし、上司や本社に報告するときに肩身の狭い思いをしなければなりません。悪い結果が出たときは、なぜそのような結果になったのか、今後に向けた改善点は何かを考えなければなりません。
  • やることが多い
    • プランから始まり、関連部署との調整、販促物制作、各種資料作成など、やることが多いです。マルチタスク処理を意識してやる必要があります。

フィールドマーケティングで要求される能力

フィールドマーケティングでは、以下のような能力が求められます。

  1. 幅広いマーケティング業務の知識
  2. 自分の考えることを正確に伝えるためのコミュニケーション力
  3. 物事をロジカルに考えて仕事を進めていく能力
  4. プレゼン能力

いずれも日々の業務をこなす過程で身につけられる知識・能力です。

まとめ

以上、外資系IT企業のフィールドマーケティング職務について考察しました。

外資系企業のフィールド・マーケティング業務は、はっきり言って大変なポジションです。でもやり遂げたときの達成感は格別です。自ら積極的に動いて、失敗を恐れずに積極的に関係部署と協業できる人にはおススメの職種です

英語は必須ですので、英語力は磨いておきましょう。

最後に、フィールドマーケティング職に限らないのですが、「外資系企業への転職」を考えている人に役立つ書籍を挙げておきます。

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